北海道の蝶

永盛 俊行(著)芝田 翼(著)辻 規男(著)石黒 誠(著)

発行:北海道大学出版会

四六判  432ページ 並製

価格 3,000円+税

 

タイトル通り、北海道に産するチョウ全116種が掲載されている。

本書の特徴を一言でいうと、「網羅的」だろう。

 

例えば、

成虫の見分け方は当然だが、

成虫では、一部の種で交尾器や発香鱗、交尾栓が付着した状態が掲載されており、興味深い。

これらの写真が小さくて見にくいのが少々難ではあるが、本書のサイズを考えれば仕方がない。

一般的には昆虫の図鑑では成虫写真だけが掲載されているが、

本書では各ステージでも生きた状態で見分けられる。

各種が同じ角度から撮影され、同定が困難な種は特徴的な部分拡大があり、比較できるように工夫されている。

 

そして、各ステージで

標本写真のすぐ近くに、簡潔に見分け方や生息環境が書かれているのも、初心者に配慮されている点だ。

そして、各種の解説はフィールドで活用することを想定して作られているのだろう。

各ステージの美しい生態写真が豊富に掲載されている。

野外で探すときに参考になる情報をコンパクトにまとめてあるので、

採集や観察に行くときのイメージトレーニングにもってこいだろう。

本書はフィールドに持ち出せるサイズなので、見つけたらすぐに確認することもできる。

 

網羅的なのは、チョウそのものだけでなく、

チョウが利用する植物まで

かなりの種数が掲載され、簡単な解説がある。

これだけで、簡単な植物図鑑だ。

これも読者にとっては利便性が高い。

 

後半には、採集法、標本作成法、飼育法、観察法なども一通り網羅されている。

特に気になったのが、トレイルカメラでの記録だ。

以前、哺乳類や鳥類での調査で使ったことはあったが、

昆虫で使えるとは思っても見なかった。

意外と簡単な工夫で使えることに驚いた。

これなら、アマチュアでも定量的なデータを取ることが簡単になるだろうし、

データが溜まってくれば新たに分かることも多いだろう。

 

いくつかリクエストも書いておこう。

・交尾器を全種で大きく掲載してもらいたかった。

交尾器が本書ではごく一部の種で、小さく掲載されているのみである。卵や幼虫のように、交尾器が比較できれば、もっとチョウへの理解や興味が深まると思う。

 

・各種の解説の和名の横に、食草が掲載されているページが記載されているが、

すべての種で1種しか記載されていない。

複数の食草が知られていて、食草パートにも掲載されているのに、

ここに記載がないのはもったいないと感じてしまった。もしかしたら単純なミスかも知れないが。

例)スギタニルリシジミの食草はトチノキ、ミズキ、キハダとあり、

トチノキ(p.358)、キハダ(p.359)、ミズキ(p.360)に掲載されている。

しかし、記載されているのは360ページのミズキのみとなっている。

 

総合的に考えれば、これだけの情報で3000円というのは安い。

著者らのチョウへの愛や情熱が結実した図鑑は見ていて楽しいし、初心者にも配慮されて作られているのがよく分かる。

チョウに興味がなくても買っておいて損はない。

実際、私はクワガタムシの図鑑の参考にするためにも購入したが、大いに参考になった。

ボリュームが大きく、一見すると専門的に見えるかもしれないが、

小学校高学年以上なら読めるよう配慮されており、

子供にぜひ活用してもらいたい図鑑である。

最初はすべてを読むのが難しかったとしても、

何年も使うことができる図鑑である。

多くの美しい写真と親しみやすいイラストがチョウの魅力を伝えてくれるだろう。