おすすめ本の書評です。自由研究に困っている保護者の方に特におすすめしますが、教育関係者、生きもの好きにはほっこりできる本です。

文部科学大臣賞を受賞した小学1年生のすごい自由研究
「セミをさがしたなつやすみ」
吉川蒼都 著
株式会社KADOKAWA
2019年6月27日発行
  • 自由研究ってどうやればいいの?
  • どんなテーマがいいの?(評価されるの?)
  • 自由研究なんて本やキットで適当に済ませて(あるいは親がほとんどやってあげて)、ドリルでもやらせた方がいいでしょ?

そんな保護者の方にぜひ一読していただきたい本だ。

公益財団法人 才能開発教育財団 全国児童才能開発コンテスト 第54回 文部科学大臣賞受賞作品である

「セミをさがしたなつやすみ」吉川蒼都

を中心に、兄姉の自由研究もどのように進められ(家族ぐるみで取り組まれ)、評価されたのかが丁寧に記録された、これまでにあまりない本だ。

内容

はじめに(p.1)にお母様が書かれている

「私たち家族5人、みんなで作り上げたこの作品」

「自由研究を通して私たちが味わった楽しさと醍醐味」

をまさに味わうことができ、自由研究のヒントがたくさん詰まった本になっている。そして、自由研究を通した我が子の成長記録に(結果的に)なっている。

自由研究の醍醐味は実物を見て、触れて、記録して、学校の授業では学べないことも学べることだと思う。

それをレポート、標本、パラパラ漫画の3つにまとめている。見る人がこの研究をリアルに実感できるよう考え抜かれた成果だ。

蒼都くんの研究

この本のメインは 「セミをさがしたなつやすみ」 のレポートが元になっていて、全てが掲載されている。

セミに興味を持った経緯、セミの幼虫の採集、羽化の観察、羽化した場所の観察、セミについて調べたこと、標本作成の様子、研究を通しての感想など、かなりのボリュームだ。

やらされたものならこれだけのものをまとめ上げることはできないだろう。そしてこれをまとめる過程でどれだけのことを学べたかを考えるだけでも、教育者として役に立つ。

 

全体を通して特筆すべきは、どのページも見る人がわかりやすいように表現されている点だ。絵や写真を上手に活用している。絵と写真のどちらで表現するのがいいか、わかりやすい絵にするにはどうすればよいか、写真で見にくいものは言葉で補足するなど、おそらく家族で話し合って、アイデアを出し合ってこういう「結果」になったのだろう。聞けばその時にどういうことを検討したか、今でも教えてくれそうだ。一番わかりやすく、個人的にもお気に入りのページが、p.22-23の「セミとぼくのせいちょうねんぴょう」(本人も気に入ってるようだ)

p.22-23 セミとぼくのせいちょうねんぴょう

そのときに思ったことや起こった出来事、セミの気持ち!を吹き出しで付けている点も工夫されている。吹き出しにすることで、目立つし、事実と感想をきっちりと分けることができている。これは意外と難しく、大人でもごっちゃにしてしまうことが多い。実際、多くの文章作成の書籍などでも必ずと言っても書かれているくらいだ。また、セミの視点で考えることは、いい意味で子供らしい。

すごいと思ったのは、右前脚が折れた幼虫の羽化の観察だ。抜け殻やカーテンに主に掴まる前脚がない場合に、どうやって羽化するかが詳しく記録されている。

羽化場所を探す行動の観察では、

  • 正常な個体より羽化場所の選定に時間がかかり、お兄ちゃんの止まりやすそうなレースのカーテンに移動させたところ、すぐに羽化しだしたこと、
  • 羽化したときにこの前脚がどうなっているか、中脚で掴まって無事に羽化できたこと

が記録されている。

私は知らないが、こういう記録はあるのだろうか?

そして、脚の先端の観察によって、先端のツメが大事であることまで考察されている。これはなかなかできないのではないかと思う。

いつ折れたか(採集前、採集後)が記録されていれば、もっと良かったと思う。再生していないようなので、羽化の数日以内に折れた可能性が高い。

ご姉兄の研究もすごい!

お姉さん(舞葉さん)はヤモリ、お兄さん(駿磨くん)は櫨谷川(神戸市)の生きものについて観察・調査したものをまとめた自由研究。

まず、生き物への愛情がすごい!ほんとに好きなのは誰が見てもわかるし、それを伝えたい気持ちがいっぱい詰まっている。

次に、観察していて疑問に思ったこと、面白い、かわいいと思ったことを、詳しく観察、記録していることもすごい。ヤモリの目の模様を細かくスケッチする着眼点!

図鑑やインターネットだけでなく、専門家(博物館など)に質問しに行く行動力もあり、聞いた内容を正確にまとめようとしているのが読み取れる。だから大人でも知らない情報が入っているので、読んでいて興味がそそられる。

本の構成や編集の工夫

この本は編集者?のアイデアや工夫も光る。これはページ下部と多くの人へのインタビューに見ることができる。

例えば、ページ下部の「PICK UP!」に工夫したことやコツが書かれている。真似して取り入れれば、どんな自由研究もわかりやすくまとめるヒントにできる。

右下にパラパラ漫画を挿入しているのも、珍しい。図鑑にも羽化の連続写真はよく見るが、審査員の評価が高かったパラパラ漫画も掲載している。こういう工夫が大事なのも実感できる。

過去の受賞作品のタイトル一覧も、読者にとって有益な情報だろう。共通するのは、身近なものの不思議に迫るテーマが多いこと。生き物だと、アマガエル、モリアオガエル、狩りバチ、ダンゴムシ、トンボ、ザリガニ、甲虫、アカテガニ、カニ、カタツムリ、ナメクジ、シジュウカラ、アオスジアゲハ、アリ、昆虫、カイエビ、カエデ、タンポポ、アサガオ、ユウガオ、ミニトマト、サトイモ、カタバミなどがタイトルから読み取れ、実に66%が生き物(昆虫15%、昆虫以外の動物27%、植物24%)の研究だったようだ。子どもが身近な生き物に強い興味があることがこれからもわかる。

コンテスト関係者のインタビューも、良い自由研究にするのに役立つだろう。コンテストの入賞(良い自由研究)は、本人が興味を持ったことをテーマにすること、が第一で、大きな発見を求められているわけではないことがわかる。モチベーション(動機)と目的意識の重要性は大人になっても変わらない。むしろ、大きくなる。大人になっても学び続けなければならないこれからの社会では最も必要とされる能力なので、これを子供のころから身につけておくのとそうじゃないのとでは大きな差ができるだろう。p.33の『「自ら学ぶ意欲」を育てる自由研究』にも似たことが書かれている。

感想

興味をもってやるのとそうでないものとは雲泥の差が出るのはわかってはいたが、小学1年生でもこれだけの研究ができることを示した好例だろう。教育関係者にもぜひ読んでもらいたい1冊。

作ったとき(小学1年生)と今(小学3年生)の字の成長も見れる。3年生の今は字がしっかりし、苦手だった?「う」も上手になって、漢字も多くなった。ますますいい字になっている。

p.62 おわりに

著者の吉川蒼都くんは、8月のジュンク堂三宮駅前店さんでさせていただいたイベントにご家族で参加くださっており、人並みならぬ好奇心の強さを感じた。このような好奇心を育んだのは家族の接し方や日ごろからの遊びから気づき、学ぶ姿勢にあるのだろう。p.39の吉川家のルールと飼育状況(生きものランド)からも読み取れる。

p.39 吉川家のルールと生きものランド

今は外国の珍しい生き物が安価に簡単に手に入る。しかし、簡単に手に入るがゆえに愛着が少なく捨てる人が後を絶たず、このような”ペット”が外来生物として大きな環境問題となっている。こういった事態を引き起こさないためにも、吉川家のルールは秀逸だ。

それに、自分で採ってきた生き物には苦労した分だけ愛着が湧くし、採るまでの過程とその経験自体が多くの学びや疑問を得る機会になっていることに大人は早く気付くべきだ。実際、駿磨くんは小学2年生で、大人でも知らない人が多い外来生物の問題を理解して行動している。

このように普段の経験(本人たちは”遊び”と思ってると思う)を通して、教えられるだけでなく、自ら学ぶ姿勢をすでに身につけていることがもっと評価され、教育現場で取り入れられても良いと思う。欲を言えば、毎年テーマや対象の生き物が変わっているようなので、ひとつのことを継続して深く掘り進めて行けば、その楽しみと難しさ、研究としての深みが出て、もっと良い研究ができ、高度な学びへと発展していくだろう。