昆虫館はスゴイ!

2021/7/21

全国昆虫施設連絡協議会 (著)

出版社からの紹介

全国昆虫施設連絡協議会に所属する全国22の昆虫館の個性的なスタッフが、昆虫と昆虫館へのこだわりについて熱く語った本気の一冊。

本書をきっかけに、少しでも多くの方が昆虫館に足を運んでくれることを願って、全国の昆虫館スタッフがここに集結。

一年365日、昆虫を愛で続けてきたスタッフだからこそ知っている内容を出し惜しみすることなく、本書だけにこっそり教えてくれました! 昆虫と昆虫館の魅力が手に取るようによくわかる昆虫好きにはたまらない一冊です。

著者の一人である、東京都多摩動物公園の田中陽介氏から献本していただきました。サインとメッセージ付きです。ありがとうございます!

本書の一番の特徴はなんと言っても、著者がバラエティに富んでいることでしょう。そのため、紹介されているエピソードも多種多様です。

昆虫館で働く多くの人たちが、様々な視点や経験、趣味嗜好までリアルに語ってくれている本書は、昆虫好きなら共感できることから趣味で昆虫に接するだけではわからない昆虫館ならではの発見までが随所に散りばめられています。

私が嬉しかったのは、やっぱり子供のころにクワガタに夢中になってた人が思ってた以上に多いとわかったこと。虫好きになるきっかけの一つになるクワガタの良さと面白さをもっと伝えていかなければと改めて感じました。

昆虫飼育の工夫や苦労、そして発見

私が特に興味を持ったのは、昆虫の飼育で様々な工夫がされていることを感じられたことです。昆虫館では飼育法が確立していない昆虫を飼育することも多いため、それまでに知られている生態や生息環境などを理解することから始め、その中から何が大事なポイントなのかを、経験と勘、そして試行錯誤しながら見つけていくという、時にはゴールが見えない仕事を成し遂げる必要があります。

でもこういうことを楽しんで(ときには苦しんで)されている様子がところどころで感じることができますし、著者たちの個性が出つつも、皆が昆虫を愛で続けてきたという共通点でまとまっています。

今回この本を送ってくださった田中氏はハキリアリを担当されています。ハキリアリを飼育・展示しているのは東京都多摩動物公園だけだそうです。映像ではよく見ますが、実物を見てみたいですね。

ハキリアリって育てるキノコ(アリはこのキノコを食べる)も引き継ぐから、通常はほかのコロニーの菌だと育てない、っていうのは目からうろこでした。こういうのは飼育してみないとわからないことなので、昆虫館ならではの発見かもですね。菌の状態によって、与える葉っぱの樹種が違うとか、国内の樹種でも菌の育成に使えたりと、知らないことが満載でした。

そして最後に、

持ちつ持たれつの関係のハキリアリと菌。アリは菌の世話をすることで、食料を得ることができます。飼育係は葉を与えたり、環境を変えたりなどして、両者の関係が良好に続くようにお膳立てをしています。しかし飼育係は、それでお給料をもらって食べていけるわけで、よくよく考えるとアリや菌と持ちつ持たれつの関係と言えるのかもしれません。

p.161

このように締めくくられています。これは彼の人となりがよく出た文と感じました。そして、アリを毎日観察することで、我々人類がこれから地球環境や生物に向き合う上で大事なことまでも悟れるということでしょう。

昆虫の見方が変わる!

「昆虫館のスタッフ」と言っても、担当によって仕事内容は多岐にわたります。それぞれの著者には所属の他に肩書((副)館長、係長、主任、チームリーダー、学芸員、技師、昆虫専門員、陸生昆虫・水生昆虫飼育、昆虫園飼育展示係)も書かれているのは、そういったこともわかるようにする意図があると思います。

そのため、今まで長く昆虫と接してきた人でも別の視点から虫を見ることができるようになりそうな気がします。この本を読んで、今まで知らなかった虫やあまり興味がなかった虫を見つけに行ったり、飼育したことがなかった虫を飼ってみたり、昆虫館の裏側を知った上で昆虫館に行ってみると、行ったことがあった昆虫館でも新たな発見が見つかったり・・・と、昆虫との接し方が変わるかもしれません。

私も博物館学芸員の資格を持っているのですが、そのために必要な博物館実習を伊丹市昆虫館で受けさせていただきました。そのときに教わったことは今でもいろんなところで活きていますし、裏側を知ることで見える世界が大きく変わったのはこのときの体験が初めてだったような気がします。今でも刺激をいただいたり、ときどきお世話になっています。

ぷくぷく標本

個人的には、「ぷくぷく標本」の作り方は前から知りたいと思ってたので、これも知れて思いがけない収穫でした。

今までは幼虫のような水分が多く、体が柔らかい幼虫などは「液浸標本」といって、液体(アルコールやホロマリン)に保存する方法が普通でした。液浸標本は、色が抜けてしまったり、スペースを取ったり、中の液体をときどき交換・追加したり、スペースを取ったりと、観察するときは保管瓶から取り出さなければならなかったり、と欠点も多くありました。

「ぷくぷく標本」というのは、幼虫を乾燥標本にすることで、これらの問題を解決するために考案された方法で、本書ではこの方法の開発者の渡部晃平さんが、わかりやすく説明されています。

私もこの標本作成法には興味を持っていましたので、早速クワガタムシの幼虫でこの方法を試しています。うまくいくでしょうか?

より詳しい方法は、「コウチュウ目幼虫における乾燥標本の作製方法」という論文で公表されています。

読みたい方は、著者の渡部さんのResearch mapのサイトの「論文」タブから探してみてください。

最後に出版社からの情報を掲載しておきます。ご参考まで。

出版社からのコメント


昆虫館スタッフの「推し虫」から昆虫の魅力や楽しみ方、1年365日昆虫の飼育に携わるスタッフが紹介する飼育の技など、大人の虫好きにお届けするマニアが書いた本気の昆虫本になります。

全編オールカラーで、ブータンシボリアゲハなど貴重な昆虫の写真が満載。昆虫好きにはたまらない、秘話満載の内容です。

昆虫の魅力だけでなく、昆虫館の魅力も伝えることを目的に執筆した書籍になります。

著者について

全国昆虫施設連絡協議会は 、昆虫の飼育や展示の方法、施設の運営や教育普及的な活動等について情報交換し研究する組織です。1990年に多摩動物公園園長などを歴任した矢島稔氏が中心となり設立され、北海道から与那国島まで全国22の昆虫施設で構成されています(事務局:東京都多摩動物公園 昆虫園)。

<全国昆虫施設連絡協議会 加盟施設>

丸瀬布昆虫生態館、胎内昆虫の家、アクアマリンいなわしろカワセミ水族館、ふくしま森の科学体験センター ムシテックワールド、北杜市オオムラサキセンター、群馬県立ぐんま昆虫の森、栃木県井頭公園花ちょう遊館、東京都多摩動物公園 昆虫園、足立区生物園、つくば市立豊里ゆかりの森昆虫館、平尾山公園「パラダ」昆虫体験学習館、竜洋昆虫自然観察公園、石川県ふれあい昆虫館、橿原市昆虫館、箕面公園昆虫館、伊丹市昆虫館、佐用町昆虫館、広島市森林公園こんちゅう館、平戸市たびら昆虫自然園、長崎バイオパーク、(公財)宮崎文化振興協会 大淀川学習館、アヤミハビル館(2021年6月現在・本書巻末の昆虫館MAP掲載順)