隠岐諸島西ノ島のニシコルリクワガタの論文化に当たっての顛末です。

前のブログに書いたように、現地に行く前から、

西ノ島が特殊な環境であることがわかっていたので、

これを科学的、客観的な視点で証明する方法を考え、

初めて使うソフトで試行錯誤しながらデータを分析したりしている最中に

「土屋利行, 2020. 島前コルリクワガタ採集記. 月刊むし (587): 18-21.

」が発表されてしまいました。

※「島前」というのは

主に西ノ島、中ノ島、知夫里島の3島を含む群島のことです。

血の気が引きました。

めちゃくちゃ焦りました(笑)

ただ、読んでみると

タイトルの通り、島前である西ノ島からニシコルリを採集したときの旅行記で、

クワガタ採集のベテラン3人がかりで1♀しか採集できなかった顛末が書かれていました。

私は一人で成虫だけで26頭を採集していましたし(自慢です(笑))

ニシコルリかどうかを確実に確かめるためには♂の外部生殖器(交尾器)(写真)を見る必要があるのですが、♂が採集されていないため確認されていないこと、

そして、

そもそも私が着目していた西ノ島の環境についてはほとんど書かれていなかった(当然、分析もされていない)ので、

西ノ島で初めてのニシコルリの記録として書いていた部分は修正を余儀なくされましたが、

メインの部分は修正の必要もなく、無事に掲載されほっとしています。

今回、採集した♂の外部生殖器(人で言うとペニスに当たる)

それまで何年も誰もいかなかった場所に、

偶然同じ年に行って見つかるなんてことがあるんですね!

そういう体験を自分がすることになるとは思っていなかったので

貴重な経験でした。

まあ、乗り越えられたから今となっては笑い話になりますが、

1日は何もできないほど落ち込みました(笑)

ここで強調しておきたいのは、

同じ虫をほぼ同時に採集しても、

普段のものの見方によってその価値の見え方が違うということ。

単にこの島で初めて採った、という見方もあれば、

同じ隠岐諸島の島でもこんなにも違いがあるのか、

この種だけでなく、このグループ(属)全体でみてもかなり特殊な環境から見つかった、

という見方もできるのです。

こういった様々な角度から科学的な見方ができるようになるためには

単にその生物の知識を詰め込んでいるだけではダメで、

  • その知識を体系的に理解していること、
  • 共通点や相違点を整理していること、(ここではルリクワガタ属の共通した生息環境とニシコルリだけの生息環境)
  • 個別と全体を何度も行き来して考えること(ここでは、全体的な「環境」を気温、標高、傾斜、植生のそれぞれで分析し、それを総合的に捉えられるようになること)
  • 科学的な分析手法を理解すること

などが必要になります。

改めて、こういった視点でもご覧いただければと思います。

pdfをご希望の方には差し上げておりますので、お問い合わせください。