この講座はUdemyにて動画でも学べるようになりました。 Udemyの講座はこちらから。 (2021年11月追記)
研修も受け付けております。 ご依頼・お問い合わせは info◎bio-science.jp (◎を@に変更してください) までお願いします。
先日、神戸市内の高校にて、高校の先生を対象に、探求や課題研究などの「研究型授業」や科学部などでの指導ができるようになる2時間の研修を行いました。
今回はかなり幅の広い先生方が受講してくださいました。
研修後に教頭先生や参加された先生からお聞きしたところによると、教師になったばかりの方から、部活動などでも数十年の研究指導をされてきた方まで、そして、担当教科も文系・理系問わずとのこと。
中学・高校での「研究型授業」指導の現状
他の教科と違ってこれらの授業は高校の現場で導入されてからまだまだ日が浅く、ノウハウとしては未熟です。
ですので、指導する先生の力量によるところが大きいのが現状です。
私が知る限り、研究の仕方や研究指導の仕方を教えるセミナーや研修というのはありません。
それぞれの先生が事例を持ち寄って報告したりすることは少し行われているようですが、実践できるレベルまで体系的に教えている人はいないようです。
大学では学生に研究指導するのは日常ですが、そのノウハウが体系化されているかというとそうでもありません。
教員個人の指導力によって成り立っている現状です。そういう意味では、大学でも高校でも同じです。
話を高校に戻しますと、ベテランの先生はそもそも研究指導をするなんて想像もせずに教師になったでしょうし、若い先生は、担当の教科を教えるのが最優先でしょう。
そして、卒業研究はやったことがあったとしても、それを教えるとなると話は別です。
そもそも卒業研究自体をやらなくても卒業できる大学や学部も多いですし、「卒業研究」と一言で言っても、レベルも数日で仕上げるレポート程度のものから1年以上毎日ほぼこれだけやるものまでレベルも様々です。
中学・高校での「研究」の特性
中学・高校での研究と、大学や大学院での研究との大きな違いは、データが圧倒的に少ないことです。(分野にもよりますが)大学の卒業研究でも査読に耐えられるほどのデータを取るのは難しいですが、中学や高校ではほぼ不可能です。
圧倒的に時間が足りませんし、生徒たち(や指導教員)はどのくらいのデータが必要なのかわかっていないので、少しのデータで満足して別の実験をしようとします(好奇心が旺盛で色々と調べたくなるのは良いことではありますが)。
しかし、データを解析して、グラフや表にしてみると、これから何が言えるのか、どれも中途半端ということがよくあります(というより、9割以上がこういう状態です)。
こういうデータをどのように活かして、まとめて、論文化したり発表させるか、が大きなハードルになっています。
つまり、データから良いところをいかに引き出せるかが重要です。
また、教える相手(生徒)の基礎力や知識量が大学生と比べても低い(少ない)ことも、指導を難しくしています。
ただ、考察は知識がないとできない(知識があればできる)のではありません。よく勘違いされているので、ここは特に強調しておきます。
研修の内容
今回の研修では、研究の中でも「考察」を、レベルアップ(というより「爆上げ」する)ための研修をさせていただきました。
今回は初めての研究型授業の指導についての研修だったので、テーマ決めから発表までの全体を俯瞰するような内容にするかとも迷ったのですが、あえて考察、しかも考察の中でも考察に必要かつ重要な「要素の抽出と整理」に絞った内容にしました。
その理由は、これまで高校生の研究発表を軽く千以上は見てきましたが、失礼ながら99%以上が考察ができていないと感じています。
全国大会レベルの発表会でもそうですし、研究で有名になった高校でもです。
一方で、わずかながら考察ができている発表をしている生徒さんの話を聞いてみると、同じ指導教員だったりしますし、何を書くと良いのかがわかっているのです。
また、自分自身の経験を振り返っても、考察をある程度書けるようになったと感じられたのは、博士号取得のための主論文(投稿論文)を書いた後です。
それまでは、自分の研究内容が近い論文や、面白いと思う論文などを参考にして(真似て)、知識を詰め込んだ上で関連しそうなことを書いていましたが、「これでいいのか?」と常に暗中模索状態で、正解が見つからずにいました。論理的な文章を書くための本(『理科系の作文技術』『日本語の作文技術』『「わかりやすい文章」の技術』などが有名ですね)も当時はたくさん読みましたが、それでも書くことはできませんでした。
なぜなら、どんな内容を書けば良いかがわかっていなかったからです。
書けると感じられたのは、論文を読んでいて、どんな要素が書かれているかが見えて、自分のデータから何を言えば良いのかがわかったときです。
このような経緯があり、今回は考察に必要な「要素の抽出と整理」をするために、大きく3つの内容をお話しました。
- 考察のための基礎知識
- 実践!「考察曼荼羅テンプレート」
- 補足とまとめ・復習
以下で、それぞれの内容を簡単に説明します。
1. 考察のための基礎知識
研究に関する基礎用語(「科学」「研究と調査の違い」「考察」など)から、考察の順番、考察の構成、考察に持っていただきたいイメージといった、意外ときちんと確かめたり考えたりしたことがない基礎知識を確認しました。
いくつか質問をして何名かの方に答えていただきましたが、人によってそれぞれの言葉に持っているイメージや定義が違っていました。
それはある意味当然で、例えば「科学」を辞書で調べたことがある人はほとんどいないでしょうし、辞書によっても内容や表現が違うからです。
また考察は、英語でDiscussionであり、Considerationではありません。それはなぜか?という根本的な考え方から確認しました。
2. 実践!「考察曼荼羅テンプレート」
メインの内容です。
考察に必要な「要素の抽出と整理」を、参加者の皆様に実践していただきながらやりました。
そして、タイトルにある通り、ここでの一番のポイントは「テンプレート」です。
このテンプレートを使うと、考察ができるようになっています、というか「なってしまう」のです。
前述のように、私自身が考察を簡単に書けるようになったのは、考察で何を書けば良いのか(要素)がわかったからです。
それなりの数の論文を読んで、やっと気づくことができました。
今は、これが頭の中に入ってからは、人の発表を聞きながら考察が理解できたり、不備に気づけたりするようになりました。
長年頭の中にはあったのを、形にして誰でも使えるようにしたのが、生きもの科学研究所式「考察曼荼羅テンプレート」です。
調べた限りでは、考察の要素と抽出ができるようになるテンプレートは存在していません。
本やインターネットなど、参考にしようと探しましたが、残念ながらありませんでした。
考察の書き方についてはそれなりの数の資料がありますが、要素の抽出については一部で触れられていることはあっても、体系的にノウハウ化されたものは未だにないようです。そこで今回、誰でもが考察ができるようにテンプレートを開発しました。
当日は、テンプレートを使いながら参加者の皆様とワークをしました。題材は、こちらの高校で実際に行われた研究です。
「パンケーキを膨らませるのに最適な条件は何か?」をテーマにしたものです。
選んだ基準は、
- 担当教科に関係なく、
- 知識がなくても理解できる
です。
私の専門である生物のテーマを選ぶと、知識があるから考察できると勘違いされるので、生物以外でむしろ、私には知識がないテーマにしました(私はパンケーキを作ったことがなく、お菓子作りが得意な小学生の方が詳しいくらいの知識レベルです)。
時間の関係上、じっくりワークの時間を取れなかったのが残念でした(本来であれば3時~4時間でやる内容なので)。事後アンケートを見る感じでは、使い方はマスターしていただけたようです。
手前味噌ですが、このテンプレートはある程度使い方が理解できれば、誰でも考察できるものになっていると思います。
実際に、「生徒に活用させてみたい」という感想もいただいていますので、高校生でも使えると感じていただけたのでしょう。
もちろん大学生や大学院生、研究者にも使えるものです。
3. 補足とまとめ・復習
ここでは、テンプレートの活用方法や指導の際のポイントなどと、まとめを行いました。
自画自賛ですが、このテンプレートの優れているところは考察ができるようになるだけではありません。
論文の考察が理解できるようになったり、考察の評価に使えたり、さらには研究以外では項目を少し変えるだけで志望理由書などの作成や添削などにも応用できることです。
実際私は、大学入試の志望理由書の添削も業務として長年やっており、100%を超える非常識な合格率すら出していますが、頭の中にこのテンプレートの志望理由書バージョンがあるからです。
合格実績がある学部・学科は文系・理系問わず多岐に渡りますし、高校生から大学生、専門学校生、社会人まであらゆる立場の人も合格しています。
知識の有無や分野、受験生の身分すら関係ありません。
この他、事前にご質問いただいていた声のかけ方や働きかけ方、どのくらい見通しを立てて指導するのが良いのか、といった内容も補足しました。
感想など
正直、これだけの内容を2時間で収めるのはかなり厳しく(当日は質問も多く頂いたこともあり、少しオーバーしました)、前日の夜遅くまで、とにかく内容の濃いものにして時間内に収める努力をしました。
このテンプレートの作成には4ヶ月もの時間がかかりました。
関連する本やインターネットでの調査から始めましたが、そもそも「考察の要素」の重要性がしっかり認識されているものが見つかりませんでしたし、
- テンプレートで書き出してもらう要素を書き出して、
- それらをまとめたり、
- 分けたり、
- どういう順番にするか、
- どういう形式やデザインにするか、
- どういうものであれば取り組みやすいか
などなど、かなり多くの試行錯誤が必要でした。
ただ、これだけの時間と手間をかけた分、誰も成し得なかったものを作ることができたのは嬉しかったです。
過去の自分の論文でもいくつか試したところ、もう少し丁寧に説明が必要だった箇所が見つかるなど、自らその効果を実感できました。
例えば、今年のはじめにマスコミなどで話題になり、神戸市長賞を受賞し、専門家からも称賛いただいた外来バッタの論文などでも、さらにレベルアップできる箇所に気づくことができました。
研究指導の専門家である大学教員でもおそらく作ったことのないものを作れたことは大きな自信になりました。
実際に私の学生時代の指導教官のブログにも、考察の指導についてこう書いてあります。
「自分の経験にもとづいて、いわば一種の職人芸に関する判断によって、結論を導いていた。」
(私が考察をどう書けば良いのかが見えたのは、指導教官が私の原稿を丁寧に見て、様々な指摘や改善案を出していただき、自分の苦手や躓いていたところを気づかせていただいたからです。この経験が、後に私が考察を書けるようになるのに欠かせなかったことは、補足しておきます)
また、当日は多くの質問をいただくことができ、その内容からもよく理解してくださったこと、これなら指導できそうと感じていただけたのも大きな収穫でした。
質問で多かったのはやはり生徒さんに指導するときのことを想定したものでした。
いくつか、事後アンケートを掲載させていただきます。掲載したものはすべて許可をいただいています。
今回の研修は、起業してやってみたかった大きな目標の1つでした。
数年かかりましたが、それができたことがとてもうれしく思います。
もし、課題研究や探求授業にお困りの学校や先生方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせください。オンラインでも対応いたします。